こんにちは、原田です。
前回はDTP全体に関するワークフローを紹介しましたね。
今回は実際に制作を行う際に使用するアプリケーションを具体的に掘り下げていこうと思います。大きく分けて4つのアプリケーションを紹介します。
Adobe InDesign(アドビ インデザイン)
最初にご紹介するのは、データ全体を統括してまとめるInDesignです。こちらで元になるページレイアウトを作成し、中身の文字情報や図・表・グラフ・イラスト・写真といったデザインデータを挿入して、紙面を形作っていきます。このアプリケーションの特徴として、多ページを前提に制作するためのものだということがあります。
文字を流したページものを制作するために使用されるので、例えば100ページ以上といった制作物が本領発揮となります。一般的に印刷会社でクライアント様からデータの入稿があった場合、データの形式としてWordのような文書作成ソフトであることが多いです。またExcelで作成した表であったり、PowerPointのスライドを使用することもあります。文字データをInDesign上に抽出しつつ、時にはIllustratorを使用して、作図・作表を行います。
また「カラーモード」にも注意が必要です。写真のJPEGデータを入稿された場合、InDesignとの互換性の高いPhotoshopによる印刷用データへの画像変換を行うことが一般的です。こちらで光源用のデータ形式である「RGB」を印刷用データの「CMYK」に変換することで、実際の印刷データとして初めて紙面での使用に耐えうるデータが出来上がります。
例えばWebサイトをパソコン上かあるいはスマホやタブレット等のデバイス上で見る場合は何も問題ないのですが、光源に表示する画像の場合、RGBでデータが作られています。こちらの方が色を表現する幅が広く鮮やかな色が出せますが、印刷用データではCMYKに変換しなければ再現することができません。
基本的には光源の元に映し出す色よりも、印刷物に表現するインクの方が色はくすんでしまいます。このRGBを光の三原色、CMYKを色料の三原色+Kと呼ばれています。
これら以外に、PDFデータを貼りこむこともあります。
本冊の中身にはトビラや目次、前付けといった様々な形式のページが存在し、いわゆるページ番号である「ノンブル」を振ってあるものもあれば、ノンブルが表示されていないにも関わらずノンブルが通っているというパターンもあります。こういった使用を理解して、必要とされるデータを収集し、レイアウトを進める必要があります。
これらの工程を経て、初めて一冊の冊子物のデザインデータが完成します。DTPのオペレーターは、こういった複雑なデータを一手に引き受ける都合上、InDesignの基本的な機能を把握しておく必要があります。例えば、どのページにも共通で挿入される形式のレイアウトがある場合、「マスターページ」というドキュメントの共有機能を使用することで、必要最低限の修正で全ページに修正を反映させることができます。
InDesignとは、こういったレイアウトに特化したアプリケーションです。
Adobe Illustrator(アドビ イラストレーター)
デザインソフトといえば最もポピュラーなものがIllustratorではないでしょうか。イラストデータを制作する、というとハードルが高く感じますが、実際に操作を覚えていくと非常に手軽に様々な加工ができるので、極めて汎用性が高いイラスト制作ソフトです。
まず作図を行うことに非常に優れており、印刷物の文中に挿入する図形の作成や、様々なグラフの作成もできるので、一般的な印刷制作物はこのソフト一本があれば作図・作表はカバーできます。またIllustratorは「ベクターデータ」という、点の座標やそれを結ぶ線を数値データで記録・再現するデータ方式です。画像を点である「ドット」の集合として表現する「ラスターデータ」とは異なり、ベクターデータはデータを展開するたびに数値データを再計算するため、拡大・縮小をしても画質が損なわれません。これによってどんなサイズのデザインにも対応できます。
主に使用する制作物として、チラシやポスターといった単ページの一点ものが中心です。名刺やパネル、製品のパッケージにも使用されます。ロゴデザインにも適しているので、企業ロゴやアイコン、またWebデザインの素材づくりにも向いています。
単ページではあるものの、複雑に「オブジェクト」が重なり合う作りになっているものに向いています。これはIllustratorが図形を構成する根幹の要素「パス」の扱いに長けているからです。パスとは「点」である「アンカーポイント」同士を、「線」である「セグメント」でつなぐことで構成されています。曲線の場合はアンカーポイントから方向線が伸び、方向線の形は端点の方向によって調節できます。これによって作成した図形・イラストの事を「オブジェクト」といいます。
このようにIllustratorは一点もののデザインに適したアプリケーションです。
Adobe Photoshop(アドビ フォトショップ)
Illustratorが作図やロゴデザインに特化したアプリケーションなら、Photoshopは画像補正に特化したアプリケーションです。元データとなる写真の加工を得意とし、色つやの変更、背景に移っているものの削除など、幅広く画像の補正時に活躍してくれます。
画像の切り抜きや馴染ませることが得意であり、写っている不要なものを切り取ったり、風景の一部から色を採取して馴染ませることができます。
また印刷用のデータに非常に強いうえに、同じAdobe社のアプリケーションだけにInDesignやIllustratorと互換性が非常に良いので、それぞれとの役割分担で画像補正に重宝されます。
印刷データを制作する際に注意しなければならないことに、印刷用のデータの「解像度」と「カラーモード」があります。
解像度が低いと印刷した時に画像がぼやけて印刷されてしまいます。よくあることとして、Web上から画像をダウンロードしてきた場合、Webの解像度が低いせいでぼやけてしまうことです。一般的にWebでは画像解像度は72dpiですが、この数値は印刷用にはかなり小さいです。印刷用データとしては300~350dpiほど必要とされます。
さらにInDesignの項目で記載したカラーモードの変更、RGBをCMYKに変更することができます。
以上の設定が必要なので、画像を挿入する印刷物を制作するうえで必須となってくるものがPhotoshopです。
QuarkXPress(クオーク エクスプレス)
InDesignがメインになる以前に、DTPの組版分野において圧倒的なシェアを誇ったアプリケーションが、Quark社の「QuarkXPress」です。
DTPに使用するパソコンは現在でもMacが主流ですが、当時はMacだけが実用レベルで画面と出力を一致させるWYSIWYGという機能を実現したことが大きな理由です。今では当たり前と感じる機能ですが、当時はMacだけでしかできないことでした。そのため、このQuarkXPressを筆頭に組版ソフトが当初はMac用でしか発売されず、よりDTPにおけるMacは盤石な環境でした。特に1990年代はQuarkXPressの全盛期であり、当時のDTPや印刷関係者であれば、MacとQuarkXPressがなければ仕事にならなかったともいわれています。実際の使用感としては、現在のInDesignと似ているといわれています。
しかし課題も多く、QuarkXPressはアメリカで開発されたため日本語による組版に対応しなければなりませんでした。この日本語版はなかなか難があったようです。また非常に高価で、1990年代はパッケージ版しか存在しなかったこともあり、バージョンにもよりますが価格は約20万円前後だったようです。ここからDTPにひととおり対応しようとすると、パソコン本体であるMacはもちろん、QuarkXPressとPhotoshop、Illustratorも必要ですから、60万円~100万円もの金額がかかったようです。さらにバージョンアップがほぼ同じような価格で、それを2〜3年おきに行うとなると、各組版オペレーターの分を揃えることはかなりの負担だったはずです。
こういった状況もあり、最終的には2001年頃にMac OS Xへの対応が遅れたため、InDesignが台頭して組版アプリのトップシェアを交代することとなりました。
いかがだったでしょうか。
一口にアプリケーションといっても、その強みや使用用途はそれぞれかなり個性的ですね。
実際の作業ではPDFを編集するAcrobatも頻繁に使用しますし、お客様からの入稿データとしてWord、Excel、PowerPoint、一太郎等も使用します。
今回でDTPにおける基本的な流れと使用するアプリケーションの概要を確認することができました。専門用語もたくさん出てきたので、次回からは各種アプリケーションについてより深く掘り下げていきたいと思います。
【参考文献】
・「DTP印刷デザインの基本」(玄光社MOOK)
柳田 寛之(著)